太郎さん

わたしは九月一日に引っ越しすることになりました。最近二ケ月間ジョンとは小康状態が続いていたのですが、先日また大げんかをし、彼が「離婚だ！　出て行け！」と言ったので、もうがまんできないと思って出ていく決心をしたのです。

わたしはジョンの弱点をいっぱい知っているので、けんかの際の罵り言葉には不自由しません。でもジョンは、自分自身や他人の心理を分析することができない人なので、口でわたしを負かすことができません。それで、けんかになると、唯一知っているわたしの弱み「永住権」を武器にとり、「離婚してやる！」と口走ります。離婚すれば、彼は部屋代も払えなくなるのに、逆上するとそんなことさえ考えられないのです。

そんな彼を憐れむ気持もあります。でも、あまりにも情緒不安定で自立心のない人と関わることには、もう疲れました。彼だって大学まで行った頭脳と毎日空手の一人稽古やバーベル体操で鍛えている健康な肉体を持っているのだから、その頭と体を現実問題に対してもう少し働かせるべきです。

こんなことを言えるのは、面接が終わったからでもあります。――わたしはどうしてこう計算高いのでしょう。

ジョンと別居したことが移民局に知れれば、わたしは強制送還になるかも知れません。でもそうなればそうなった時のこと。それまではせいぜいアメリカ生活を楽しみたいと思っています。

新しく住むところは間借りで、部屋代は一ケ月二五○ドル（約二万八千円）。サンフランシスコ郊外の住宅地にある、古い大きな家の二階の十畳くらいのベッド・ルームです。二階には広いベッド・ルームがもう二つあり、それぞれアメリカ人と日本人の男性が借りています。二階の台所、風呂、トイレ、居間は三室共同です。

今はあわただしい気持ちなので、引っ越しがすんで落ち着いたらまた書きます。

ゆうこ