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( 表紙の画像は このページの一番下にあります )



イランの昔話
鬼の毛 三本

再話 ナイエレ・タガビ
文 さいとう ゆうこ


「王さま、いま この国の どこかで 男の子が 生まれました。
両肩に ほくろのある 男の子です。
その子は やがて この国の王になり、
あなたは 王の位をうしなうでしょう」
星うらない師が予言した。

星うらない師に 何でも そうだんする 王さまは、
この予言に たいへん おどろき、
ただちに 国じゅうに おふれを 出した。
「両肩に ほくろのある 男のあかんぼうを
つれてきたものには、ほうびをとらせる」

すると、まずしそうな男が、あかんぼうを だいて やってきた。
「王さま、わたしの むすこの 両肩には、
ほくろが ございます。 これ このとおり」
王さまは、ニコニコしながら その男に ほうびをやって、言った。
「よい子だな。 その子は わしに あずけるがよい。 
この城で りっぱに そだててやろう」
王さまの めいれいには さからえない。
男は あかんぼうを おいて、 かえって行った。

その夜、王さまは あかんぼうを はこに入れて、こっそり 川に流し、
安心して お城に かえった。

ところが はこは しずまないで、どんぶら どんぶらと 流れて行き、
やがて きしべの草に ひっかかって とまった。
つぎの日の朝、水車小屋の あるじが あかんぼうを見つけた。
「おお! これは きっと 神さまが、
子どもの いない わしら夫婦に おさずけくださったのだろう」 
水車小屋の夫婦は、
この子に ベヘザードという 名まえをつけて、だいじに そだてた。


それから 何年かが すぎ、
ベヘザードは りっぱな わかものになった。
ある日のこと、狩に出かけた 王さまが、
けらいたちを ひきつれて 水車小屋のそばを とおりかかった。
「ああ、わしはつかれた。 ここで ちょっと やすんでいくぞ」
王さまは、水車小屋に 入って行った。

ベヘザードは 心をこめて 王さまの おせわをした。
王さまは、ベヘザードを気に入って、いろいろなことを たずねた。
そして 話しているうちに、はっと気がついた。
(おお、この男は、わしが むかし 川に流した あかんぼうではないか!)

そこで 王さまは、なにくわぬ かおをして、
1まいの手紙を書いた。
その手紙には こう書いてあった。
「この手紙を とどけた男を、すぐに ころすように」
そして その手紙に 封をして、ベヘザードに 言った。
「すまぬが、この手紙を いそいで 妃に とどけてくれ」
なにも知らない ベヘザードは、すぐに 馬にのって お城に むかった。

馬をすすめて行くうちに 日がくれて、
雨が ザーザー ふりだした。
これは こまった、と思っていると、
やみの中に 1けんの家の あかりが見えた。
ベヘザードは、その家のドアをたたいて 言った。
「こんばんは。 すみませんが、ひとばん とめてくれませんか」

すると、おばあさんが出てきて 言った。
「とめてやっても いいが、ここは どろぼうの家だよ。
みんなが帰ってきたら、なにをされるか わからないよ」
ベヘザードは わらって こたえた。
「へいきですよ。 おれは どろぼうなんか こわくない。
それに、ぬすまれる物なんか もってないんだ」


おばあさんは ベヘザードを 中に入れ、
いろりの そばに ねどこを しつらえてくれた。
つかれた ベヘザードは、じきに ねむってしまった。

夜おそく、どろぼうたちが かえってきた。
「おや、ばあさん。 だれだい、そこに ねてるのは」
「旅の わかものさ。 雨にふられて こまってたから、とめてやったんだよ」
どろぼうたちは ベヘザードの もち物を しらべ、
手紙をみつけて読んだ。
「なに? この手紙を とどけた者を すぐに ころせだと?
かわいそうに。 こいつは なにも知らないで、
こんな手紙を とどけようと してるんだな。
よし、おれが 書きかえてやろう」
どろぼうは その手紙を やぶりすて、
王さまが書いたのと そっくりな字で、こんな手紙を書いた。
「この手紙を とどけた男を、すぐに わしの むすめと 結婚させるように」

つぎの朝、ベヘザードは どろぼうの家をたち、やがて お城に ついた。
手紙をよんだ お妃さまは びっくり。
だが 王さまの めいれいには さからえない。
すぐに したくをして、ベヘザードと王女を 結婚させた。

しばらくして、王さまが 狩から かえって来た。
すると、なんということだろう!
ころさせたはずの ベヘザードが、生きているばかりか、
王女と 結婚しているではないか!
このままいくと、星うらない師の 言ったとおり、
ベヘザードが 王になってしまうだろう。


―― 以下略 ――
(絵本のデザインは、このページと同じではありません)




【表紙の画像】 ☆☆☆ 絵: ナイエレ・タガビ ☆☆☆