バルボザ・レッサ 作
さいとう ゆうこ 訳
サンタクロースが 夕食のテーブルに ついた。
まじめで 気前もよさそうな、長いあごひげの老人。
サンタクロースに ぴったりの人だ。
おちつきのある その声。
こどもたちの頭をなでながら プレゼントをくばっていく、
やさしい ものごし。
家中が しあわせな気分に つつまれた。
「さあさあ。 サンタさんは もう
つぎの家へ行かないと いけないんだからね」
とわたしが言っても、
子どもたちは なかなか そばを はなれようとは しなかった。
そのサンタクロースが 今、
すぐとなりの台所で うまそうに食事をしていることなど、
もちろん 子どもたちは知らない。
わたしは つい ２日前、この人に はじめて会い、
サンタクロースとして 家に来てもらうことにしたのだった。
この食事は 報酬の一部というわけだ。
「その服は もう ぬがれたらどうですか？
そんな重いものを着てたら 暑いでしょう」
とわたしは言った。
「はあ、ありがとうございます。
じゃが わしは、これが 気に入っとりますでなあ。
サンタクロースに なっとるのが うれしゅうて。
いや ほんとに、かまわんでください」
居間からは、大はしゃぎしている こどもたちの声が聞こえてくる。
もらったばかりの おもちゃで 遊んでいるのだ。
「ほら。 聞こえるでしょう？
サンタさんが来てくれたんで、みんな 興奮してるんですよ。
ああ、子どものころを思い出すなあ。
サンタクロースが はじめて来てくれたときのこと、
今でも はっきり おぼえてますよ」
そう言ってから、わたしは ふと聞いてみたくなった。
「ねえ、サンタさん。
あなたも お小さいころ、
サンタクロースが来てくれた思い出は ありますか？」
サンタは ちょっと口をつぐみ、わきを向いた。
「わしがですか？
わしが――このサンタが、
子どものころ サンタクロースに 来てもろうたとですか？
大将、ばかを言うちゃ いかんですよ」
サンタは かなしそうに 下を向いた。
わたしは わけがわからず、だまっていた。
サンタは すぐに口をついだ。
「大将。 なんなら ちょいとばかり、
わしの 身の上話を しましょうかい」
「おお、そりゃあいい！ ぜひ聞かせてください。
サンタクロースの身の上話――こりゃ おもしろそうだ！」
わたしは メイドに ワインを１本もってくるよう 言いつけた。
今夜、わが家に こんな よろこびを もたらしてくれた サンタクロースには、
ワインぐらい ごちそうしても いいはずだ。
サンタは ワインをひとくち 口にふくみ、
うまそうに 舌の上で ころがしてから、
ポツリポツリと かたりはじめた。
―― 以下略 ――
（絵本のデザインは、このページと同じではありません）
