愛 は 死 よ り も
―― 小泉八雲 『倩女の話』より ――
再話 さいとう ゆうこ
むかし、ゆったりと 流れる 川の そばに、
裕福な 一家が 住んでいた。
あるとき、この家で 女の子が 生まれ、
チュンファンと 名づけられた。
だが 母親は、この子を 生んで、じきに 亡くなった。
一家は かなしみに つつまれた。
なにも 知らない 赤んぼうは、乳を もとめて 泣いている。
すぐに 何とか しなければ ならなかった。
父親と 祖母が こまりきって 話していると、
この家の 女中が 口を はさんだ。
「大おくさま。 だんなさま。
おじょうさまを、川上の
渡し守のところに おあずけになっては いかがでしょう？
渡し守の おかみさんは、つい 二日まえに 男の子を 生んで、
お乳も たっぷり 出るそうで ございますよ。
なんでも、子どもは リエンと 名づけたとか」
「そうか、それは たすかった。
さっそく たのみに 行ってみよう」
父親は ほっとした ようすで そう言い、
祖母も 満足げに うなずいた。
チュンファンと リエンは、リエンの母親の むねで
なかよく 乳をのみ、なかよく ねむった。
やがて 歯が はえ、よちよち 歩くようになると、
チュンファンは 生まれた家に かえされた。
だが チュンファンは、
｢リエンは どこ？ リエンが いないよお！｣ と 泣きつづけた。
そのため、子もりの ばあやは、
毎日 チュンファンを 渡し守の家に つれて行って あそばせた。
少し 大きくなると、チュンファンは
一人で 出かけて行くように なった。
そして、リエンと いっしょに 魚を とったり、
舟の上から 川に とびこんだりして、
日が くれるまで あそんだ。
チュンファンは、いつも リエンの 味方だった。
リエンが いたずらをして 父親に なぐられているのを 見ると、
｢リエンを おこらないで！｣ と 父親に しがみついた。
村の子の だれかが リエンを いじめると、
チュンファンは ムキになって 向かって行った。
チュンファンは 年ごろに なると、
かがやくばかりの 美しい むすめに なった。
そして、チュンファンを よめに ほしいと 申しこむ 人が、
つぎつぎに あらわれた。
だが チュンファンは そのたびに ことわった。
そのうち 美しい チュンファンの うわさは 村の 外にまで ひろがり、
その土地の 領主が よめに ほしいと 言ってきた。
父親も 祖母も よろこんで、
チュンファンに ねっしんに すすめた。
だが チュンファンは 言った。
｢お父さま。 おばあさま。
わたしは リエンと 結婚したいの｣
祖母は おどろいて 言った。
｢なにを 言うの、チュンファン。
まずしい 渡し守の 家なんかに、
だいじな おまえを やれるものですか。
そんなことは ゆるしませんよ｣
すると チュンファンは、きっぱりと 言った。
｢じゃあ、わたし、一生 およめに 行きません｣
―― 以下略 ――
（絵本のデザインは、このページと同じではありません）
